前編では、飲食店の開業にどの程度の資金が必要なのか?自己資金はどの程度貯めておくべきなのか?についてお伝えしました。後編では、飲食店開業はどのようなことにお金がかかるのかを具体的に解説していきますので是非最後までお読みください。
この記事は以下のような人におすすめ!
- 飲食店開業に向けて準備・検討している方
- 飲食店開業に向けて自己資金を貯めている方
- 飲食店を開業したいが資金がどの程度必要かわからない方
はじめに
お店の開業資金は、席数の多い居酒屋、カウンター席のみのラーメン店、気軽に使えるカフェというように、どの程度の規模感のお店を開くのかによっても大きく変わってきます。この記事は個人で小規模のお店を開業するケースを想定して解説しています。
飲食店開業はどんなことにお金がかかる?
私がこれまでに関わってきた飲食店で資金に余裕をもって開業できたケースはほとんどありません。中には、物件取得と内装工事だけでほぼ資金が底をついてしまったケースもありました。資金の使い方を見誤ってしまい、開業時にはすでに瀕死の状態ということも少なくありません。
では、なぜこれほどまでに費用がかかるのでしょうか?開業資金をわかりやすく理解するため、開業資金を3つに分けて一つ一つ見ていきましょう。
物件取得費 | 物件を取得するために必要な資金 | 保証金・敷金、礼金、仲介手数料など |
設備資金 | 店舗が営業できるよう設備を整える資金 | 内外装工事費用、厨房機器購入費用など |
運転資金 | 売上が安定するまでに必要な資金 | 仕入れ、人件費、家賃、水道光熱費などの6カ月分 |
物件取得費
物件取得費は、物件を本契約して自分の物件として取得するために必要な資金で一般的には家賃の13カ月分程度(仲介手数料を含む)が目安と言われています。その内訳は以下の通りです。
費用の内訳 | 相場 | 家賃が20万円の場合 | 支払先 |
保証金・敷金 | 家賃10ヵ月分 | 200万円 | 物件のオーナー |
礼金 | 家賃1ヵ月分 | 20万円 | 物件のオーナー |
仲介手数料 | 家賃1ヵ月分 | 20万円 | 物件を紹介した不動産会社 |
前家賃 | 家賃1ヵ月分 | 20万円 日割りが発生しない場合 |
物件のオーナー |
合計 | 260万円 |
- 上記は大都市圏での一般的な相場です。地方では契約内容によって保証金・敷金は1~3ヵ月、礼金なしなどといったケースも多く見られます。その分、取得費用が抑えられるため、設備投資へ資金を回すことができます。
- 上記に加えて物件を契約する時に火災保険への加入が義務付けられていることが多く、別途費用が必要になります。
- 物件によっては「フリーレント〇カ月」が契約に盛り込まれているケースもあります。フリーレントとは、契約後、一定期間の賃料(1~2ヵ月程度)が無料となることです。
設備資金
設備資金は、店舗が営業できるよう設備を整えるために必要な資金で相場は1坪×50万円程度が投資の目安と言われていますが、近年では建築資材などの高騰によってそれを上回るケースも増えてきています。
コンクリートや配管がむき出しで店舗としての機能が備わっていない「スケルトン物件」を借りる場合は以下のような設備が必要になります。
費用の内訳 | 主な内容 |
外装 | 店舗の外壁、看板など |
内装・設計 | 壁・床・照明・水回り・ガス・電気・空調・トイレなどの工事並びに設計 |
厨房機器 | シンク・ガス台・調理台・冷蔵庫・オーブンなど |
備品 | レジ、テーブル、イス、鍋、プライパン、食器など |
その他 | DX化に伴う初期導入費用など |
- 設備投資額は物件の広さや受け渡しの状態によって大きく変わってきます。
- 内外装工事は物件の状態により追加工事が発生することが多く、当初の見積もりの範囲内で収まることは稀です。少しでも設備投資を抑えるため、厨房機器や備品は中古で購入するなど出費を抑えることも検討しましょう。
- 元飲食店の空き物件でそのままの状態でも営業が可能な「居抜き物件」というものがあります。居抜き物件を取得する場合は、設備投資は抑えられるものの物件取得にあたり、「造作譲渡費」が別途かかるケースがあります。
- 近年の飲食業界は人手不足や物価高騰、消費者行動の変化への対応など、多くの課題を抱えていることからデジタルツールを導入し、DX化を図ることを想定しておくべきです。DX化に伴う初期導入費用を予算に計上することをおすすめします。
運転資金
開業における運転資金は、売上が安定するまでに必要な資金のことで一般的にはお店の運営にかかる仕入れ、人件費、家賃、水道光熱費などの経費6ヵ月分が目安と言われています。
日本政策金融公庫が開業後の飲食店経営者に対して行った調査では約6割のお店が軌道に乗るまで6ヵ月以上かかったというデータがあります。つまり多くのお店が開業後、半年は赤字に近い状態だったと推測されます。
開業後、すぐに目標とする売上に到達しなければ即廃業という最悪のシナリオは絶対に避けなければなりません。そのため、余裕をもった資金計画を立てることが重要です。
開業資金の内訳(イメージ)
物件はスケルトンの状態(外装工事は行わない)、家賃20万円、店舗面積10坪、毎月かかる経費60万円で算出した場合の開業資金のイメージは以下の通りです。
内訳 | 金額 | 内容 |
物件取得費 | 260万円 | 家賃の13カ月分 |
設備資金 | 550万円 | 坪単価50万円×10坪+看板代20万円+その他30万円 |
運転資金 | 360万円 | 毎月の経費60万円×6ヵ月分 |
合計 | 1,170万円 |
当面の生活費
開業資金には含まれませんがこれら3つの資金以外にも当面の生活費を確保しておくことも考慮しましょう。飲食店の開業では、お店が軌道に乗るまでは無収入の状態になることも決して珍しいことではありません。そのため自己資金に全ての貯蓄をつぎ込むことは避けるべきです。
まとめ
今回は前編・後編にわたって飲食店開業に必要な資金についてお伝えしました。自分のお店を開業するという夢を実現するためにはどれくらいのお金(貯蓄や融資)が必要で、具体的にどういったことにお金がかかるのかが伝われば幸いです。
飲食店の開業では諸々の初期費用が当初の予算内にきっちり収まることの方が少なく、大幅に予算を超過するのは決して珍しいことではありません。そのため、資金計画を作る際には、必要なコストに対して余裕をもって積算しておくことと、開業後のランニングコスト(運転資金)までを意識しておくことが大切です。少しでも資金不足に陥るリスクを回避できるようにしっかり準備をしていきましょう。 最後までお読みいただきありがとうございました。