飲食店の開業は、単なる「夢の実現」ではなく、綿密な計画と周到な準備が求められる事業プロジェクトです。
創業計画書作成、物件探し、資金調達、許認可申請等の手続き、メニュー開発、スタッフ採用──それぞれの工程は互いに影響を及ぼし、ひとつの遅れが全体のスケジュールに直結するため細心の注意が必要です。
本記事では、開業までのスケジュールについて、必要なステップと注意点を時系列に整理してわかりやすく解説しますので是非最後までお読みください。
この記事は以下のような人におすすめ!
- 飲食店開業に向けて準備・検討している方
- 飲食店開業に向けて何から手を付けたらわからない方
- 飲食店開業に向けて準備することを確認したい方
準備期間はどれくらい必要か?
飲食店の開業に必要な準備期間は、店の規模や業態などにより異なるものの、1年程度が目安とされています。
しかし、飲食店を開業しようとする多くの方が時間という制約の中で準備不足のまま、リスクを抱えて見切り発車をしているという現実があり、開業から1年以内の廃業率が40%以上という高さに結びついています。
主な準備事項とスケジュールの目安
飲食店を開業するまでには、さまざまなプロセスがあります。主な準備事項と目安となるスケジュールは以下の通りです。
項目 | 目安 | 内容 |
1.店舗コンセプト設計 | 12ヶ月前 | 開業に向けての最初の取り組みです。業態やメニューの方向性、ターゲット客層など、お店の軸を固めましょう。 |
2.競合店調査 | 12ヵ月前 | コンセプトの設計と同時進行で出店を検討しているエリアの競合店の情報収集や分析に取り組みましょう。 |
3.創業計画書作成 | 9ヵ月前 | 店舗コンセプトをもとに創業計画書を作り上げましょう。計画書の様式は融資の申し込みを検討している金融機関が定めるものを使用しましょう。 |
4.物件探し | 8ヵ月前~5ヵ月前 | 創業計画書をもとに物件を探し、条件に合う物件が見つかれば仮押さえをし、不動産会社・工事施工業者などから見積りを取りましょう。 |
5.厨房設備・什器の選定 | 8ヵ月前~5ヵ月前 | 必要な厨房設備・什器等を選定し、販売業者から見積りを取りましょう。 |
6.資金調達(融資申込) | 4ヵ月前 | 借りる物件が決まり、見積書が揃ったら金融機関へ融資を申し込みましょう。審査の結果がでるまで1ヵ月程度かかることがあります。 |
7.物件の正式契約 | 3ヵ月前 | 融資が決まったら物件の正式契約を結び、保証金などの物件取得費を支払いましょう。 |
8.店舗内外装設計・施工 | 3ヶ月前 | 物件の正式契約を結んだ後、施工業者へ設計・施工を発注し、店舗の改修工事に着手しましょう。 施工業者から図面があがってきたら保健所・消防署へ事前相談に行きましょう。 |
9.厨房設備等搬入・設置 | 2ヶ月前 | 内装工事の完了後、厨房設備、什器、備品などを搬入し、設置しましょう。 |
10.メニュー試作等 | 2ヶ月前 | メニュー試作、原価計算、食材仕入れ業者の選定を進めましょう。 |
11.各種届出・手続き | 1ヶ月前 | 保健所、消防署、税務署、労働基準監督署などへ各種届出・手続きを行いましょう。 |
12.広報活動 | 1ヵ月前 | 正式なオープン日が決まったらSNS、Web、チラシ等による広報活動を開始しましょう。 |
13.スタッフの採用・研修 | 1ヶ月前 | スタッフを募集し、採用面接を行いましょう。採用決定後、レベルに応じた研修を行いましょう。 |
14.オープン準備・プレオープン | 1~2週間前 | 関係者などを招待し、試験的に営業を行い、オペレーションに問題がないかをチェックし、オープンに向けて改善していきましょう。 |
15.グランドオープン |
スケジュール上の注意点
上記のスケジュールはあくまで目安です。本当に準備期間が1年も必要なのか?と感じる方も多いと思いますが、物件探しや資金調達が難航する場合はさらに長期化することもあります。しかし、物件が決まってからは非常にタイトなスケジュールになるため、全体の計画を前倒しで進めるくらいの余裕をもって準備を進めていきましょう。
物件の種類
物件には大きく分けてスケルトン物件と居抜き物件があります。どちらを選択するかによって、その後のスケジュールは大きく変わってきます。
スケルトン物件とは?
スケルトン物件とは、コンクリート打ちっぱなしで、壁、床、天井などがなく、配管や配線がむき出しになっている状態の物件のことです。デザイン面などのこだわりを反映した店舗作りに適しており、自由度が高いというメリットがある反面、一から店舗を作り上げていくため、相応の工期がかかり、設備投資も高額になります。
居抜き物件とは?
居抜き物件とは、前の店舗で使われていた造作・設備・什器などが残っている状態の物件のことです。手直しするだけですぐに営業できてしまう手軽さがあり、工期も短く、設備投資も抑えやすいというメリットがある反面、過去に何らかの理由によって閉店した物件であり、安直に手を出すのは危険とも言われています。
スケジュールが遅れるその他の理由
深刻な人手不足
飲食業界の人手不足は非常に深刻です。世間的には飲食業=ブラック労働というイメージが浸透しており、求人誌に高額な費用を支払い、求人広告を出しても人が集まらないのは珍しいことではなく、人手不足を理由にオープンを先延ばしにせざるを得ないケースもあります。そのため、時給や労働環境だけを意識するのではなく、短時間勤務や週末限定勤務など、多様な働き方を受け入れることも検討しましょう。
営業許可申請時の不備
営業許可を得るためには、現地(実店舗)で行われる保健所の検査に合格する必要があります。申請は店舗完成の10日前までとなっており、検査はお店のオープン直前になることが多くなります。万が一、店舗構造などに不備に見つかった場合には許可が下りず、営業ができません。そのため、工事着工前に図面などを保健所の窓口へ持参し、相談するようにしましょう。
準備に取りかかるタイミング
開業に向けて具体的な準備に取りかかるタイミングは目標とする自己資金が貯まる頃を目安にしましょう。飲食店の開業には規模や立地により異なるものの平均で1,000万円程度が必要とされています。融資で借りられる資金は自己資金の3倍程度が目安のため、自己資金として少なくとも300万円程度貯めることを目指しましょう。
また、新規開業は事業の実績がないため、金融機関は融資額に一定のラインを設けています。個人事業の場合、借りられる資金は最大でも1,000万円程度と考えましょう。
また、お店をオープンする時期は飲食業界の繁忙期である以下の時期を避けるようにしましょう。
- 12月中旬~1月初旬:忘年会・新年会シーズン
- 3月後半~4月初旬:歓送迎会シーズン
- 4月後半~5月初旬:ゴールデンウィーク
- 8月中旬:お盆
繁忙期に安定したサービスを提供するためには、スタッフが通常業務に慣れ、店独自のオペレーションを確立する必要があります。目標を明確にし、オープン日を設定しましょう。
まとめ
この記事では、飲食店開業までのスケジュールについてお伝えしました。
飲食店の開業は、計画・準備・実行のすべてが綿密に絡み合う長いプロセスです。資金の不安、時間との闘い、そして自分自身との対話。それらに覚悟を持って向き合い、乗り越えた先に飲食店経営のスタートラインが待っています。スケジュールは往々にして思うように進まないことの方が多いですが、一つ一つの工程を漏れのないように着実にこなし、開業を目指していきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。